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作者も忘れてた設定を拾ってくるんじゃないよ

漠尚性別改変if








(尚清華が実は女だったって……作者も忘れてたしょーもな設定を拾ってくるんじゃないよ!システム!)
それがこの世界に転生してから二番目か三番目くらいに尚清華が心の中で叫んだ言葉だった。
尚清華こと向天打飛機がこれまでに作り出したキャラクター設定は膨大にあり、さらのボツにした設定はその五億倍ある。読者ウケを考えて作品内では使わないことにした設定が多々あり、尚清華が実は女性だったという設定もその中のひとつというわけだ。
(え?何のための設定だったけ?冰哥のハーレム要員にはならないもんな!?)
しばらく安定峰で生活をする中で他の子弟たちは尚清華のことを師弟、師弟と呼ぶのでずっと男として過ごしてきたことがわかる。この世界の女性という女性はみな洛冰河に惚れない者はおらず残らず後宮入りするわけだが、尚清華はどこまで行っても漠北君のスパイでありそれ以上でもそれ以下でもないはずだった。
「……とりあえず変なフラグ立てないように気を付けて過ごすか」
転生前は男として過ごしてきた尚清華であるので、男装女子として過ごすことは逆に難しいことではなかった。女の身に起こるあれやこれやといった体の変化や生理現象は仙姝峰に納品する物品を適当にちょろまかせば済む話だ。そして幸いなことに安定峰の他の子弟たちは知性パラメータが低く設定されているので尚清華が男として振る舞えば、そこに疑問を持つ者もとくにいないというわけである。
それなりに順調に誰にも気付かれないまま男装女子生活を送ってきた尚清華だったが、ここに来て最大の危機に瀕していた。
(怪我をしたイケメン魔族、男装女子、宿の部屋に二人きりで何も起きないはずがなく………って起きてたまるか!)
心の中で脳裏によぎった最悪なキャッチコピーに突っ込みを入れつつ尚清華は漠北君の寝顔を見つめていた。咄嗟の判断で漠北君を介抱するために連れて来てしまったがこのシチュエーションはまずいのではないだろうか。とはいえ、女だとバレたところで漠北君が例えば壁ドンをしてきたり王子様のように跪いてきたりするのも考えにくい。何せ漠北君は向天打飛機が男の憧れを詰め込んで作ったキャラなので、そういうのはなんというか、解釈違いなのである。
「ますます男装女子設定の使いどころがわからん……」
まあ使いどころなくても全然かまわないんだけど、と思いながら看病のために働きまわっていたせいで汗と埃まみれの服と体をなんとかしようと物音を立てないように部屋の隅で着替えながら体を拭いていた時だった。ごそ、と物音がして尚清華が上半身裸のまま振り返ると体を起こそうとしている漠北君と目が合った。
「………」
「………」
思わず数秒固まってしまったが、
(見られた!!)
急いで上着を羽織ったが、たぶん確実に見られている。女だとバレたか!?と思いたいところだが、今の尚清華はいわゆる女性らしい体型とは程遠いため、ワンチャンバレていない可能性もある。
(頼む、なんとか言ってくれ……!)
せめてバレたかバレてないかがわかれば対処のしようもあるというものだ。しかし尚清華の祈りとは裏腹に、漠北君は再び横になって目を閉じてしまった。
翌日の漠北君も何を考えているのかよくわからず、尚清華の方から切り出すのも墓穴を掘るような気がして何も聞けないままでいた。その夜も結局また寝台のそばでうたたねをしながら暑さに負けて漠北君に抱きついてしまい蹴り出され、蹴られた!ということは女だと思われていない!?と思うものの、漠北君が女相手だからといって手加減をするようなキャラだとも思えずに結局また悶々とするのであった。
結局利害のために尚清華は漠北君にくっついて回ることになるのだが、蒼穹山の他の峰主たちも尚清華の性別などに興味はないようで、様々な理由で一番親しくしていた沈清秋ですら自分の事情で手一杯なせいで何か言われることもなかった。


そしてなんやかんやあってそういう関係になった時に尚清華は漠北君に思い切って打ち明けたのだった。実は自分は女なのだと。
「……知っているが……」
何を今さら?と言わんばかりの漠北君の表情に、逆に驚いたのは尚清華の方だった。
「知ってた!?いつから!?なんで!?ていうか知ってたらそう言ってください!!」
やはり裸を見られた時に気付かれたのだろうかと思って尚清華が尋ねると、漠北君はあまり言いたくなさそうな顔でこう言った。
「紗華鈴が言っていた」
「それはなんか嬉しくないやつ!」
せっかくいわゆる両思いというやつになったのだから、せめて自分で気付いてほしかった。同僚女性に気付かれて実はバレていたとかロマンチックも何もないではないか。ていうか紗華鈴も気付いた時に言ってくれ。
何もかも不格好でうまくいかない自分たちにムカついて腹立ち紛れに漠北君の腹筋を殴っている間、漠北君の目元が少しだけ緩んでいることに尚清華は気付いていないのだった。







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