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It might as well be spring

二哈二次創作。
中盤くらいまでに出てくる踏仙君と楚晩寧の話としても、結末~番外を踏まえた二人の話としても読めるようになってる……といいな!
結末~番外のネタバレなしの話としても読めるように書いたつもりです(がうまくいってるかどうかわからない)
墨燃お誕生日おめでとう~あんまりお祝いっぽい話にならなくてごめん。





時折風に肌寒さも感じるが柔らかな日差しの中、踏仙君は後宮へと足を向けた。
『後宮』とはいうものの、その場所に存在するものを人が知れば酔狂極まれりと言うだろう。ただし踏仙君の振る舞いが普段から酔狂であることを差し引くべきかもしれないが。
他人には気付かれない程度の機嫌の良さで踏仙君が後宮へ足を踏み入れると、噎せ返るような花の香りに包まれた。周囲の美しい色を見せる花に満足そうな顔をし、その視線はすぐに一人の人影を捉えた。
「いたのか」
踏仙君が声をかけると、楚晩寧は振り返って睨みつけるように言った。
「私がここにいておかしいことは何もないだろう」
「まあそうだな。後宮は元よりお前の場所だ」
「後宮……」
春の花に囲まれ楚晩寧が複雑そうな顔をする。それを見て、楚晩寧とここで暮らすようになって数年が経つのだな、と踏仙君は妙な感慨を覚えた。
踏仙君が隣に並んだが楚晩寧は特にそこから立ち去る様子も見せず、しばし二人何も言わないままその場で佇んでいた。
「何をしに来た」
ようやく楚晩寧の方が口を開く。
「いや、ここもずいぶん良い場所になったと思ってな」
また何か面白いものを作ろうと思っていると踏仙君が話して聞かせると、楚晩寧は顔を露骨に顰めた。
「……もう箱庭に閉じ込められるのは御免だ」
「そう言うな。お前も喜んでいたのを本座は知っている」
楚晩寧の言葉を踏仙君は一笑に付した。それ以上楚晩寧も反論することはなく、ため息をついている。その横顔を眺めていると、踏仙君はふと己が春の夢の中にいるような気分になった。自分を苦しめるものはもはや何もなく、楚晩寧と穏やかな関係でいられる。……そんな春の夢だ。
いつもは楚晩寧のことなどお構いなしに横暴に振る舞う踏仙君が神妙な顔で己を見つめていることに気付き、楚晩寧は怪訝な顔で名を呼んだ。
「……墨燃……?」
「晩寧」
問い掛けに返事をしたものの続く言葉は思い浮かばず、ただ心だけがざわめく。踏仙君は心を静める術がわからずに、結局癇癪を起した子供のように楚晩寧の手を引いて屋内へと連れ込んだ。困惑した顔をしているものの、楚晩寧の抵抗はなくおとなしくついてくる。
春は誰にでも平等に訪れると言うが、そんなものは嘘だと踏仙君は思い、それでも胸を締めつけるような春の夢に浸っていたい気分にもなるのだった。




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