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夜明けまで一時間

残次品の二次創作です。

将軍お誕生日おめでとうのちょっとした話です。
本編終了後の陸林の生活。




林静恒が目を覚まして一番最初に目に入るのは、当然夫の姿である。
健やかな寝息を立てる陸必行を起こさないようにそっと布団から抜け出し、上体を起こす。このまま朝の日課であるトレーニングに向かっても良いのだが、林静恒はしばし何をするでもなく陸必行の寝顔を見つめていた。
林静恒にこのような時間が訪れるようになったのは、実はごく最近のことであった。
まず第一に、以前の陸必行は林静恒が先に起きるとそのちょっとした気配ですぐ目を覚ましたのだった。すぐに隣に林静恒がいることを確かめようとするので、それをしばらくあやしてやるのが常だった。
また、第八星系総長としての仕事も非常に忙しかったため、陸必行が朝ゆっくりと眠れるのも今のように引退してからなのだった。
髪質なのか寝ぐせなのか判別のつかないくるんとした髪の先を弄び、身体を屈めて林静恒はその毛先に口付けをする。起きる気配もない夫を見て満足して林静恒は、そこでやっと起き出してトレーニングウェアに着替え始めた。
銀河城はまだ夜明け前だった。


「おはよう、静恒」
林静恒が汗を流していると、パジャマ姿のまま陸必行が顔をのぞかせた。
「起こした?」
「ううん、たまたま目が覚めただけ。君が出掛ける時間じゃかなかったから久しぶりに一緒に起きようかと思って」
殊勝なことを言いながら、陸必行はまだ眠そうな目を擦りながら林静恒にもたれかかってきた。
「君が引退後の僕を労わってくれてるのは知ってるけど、起きた時に隣が空っぽなのは少し寂しいよ」
だから今朝は愛するハズバンドに行ってらっしゃいのキスをしてあげるために起きたのだと陸必行は胸を張る。
「これから朝ご飯?」
「ああ、汗を流してから」
「じゃあ僕も一緒にシャワーを浴びようかな」
「……」
油断も隙もなく甘えてくる陸必行に閉口しながら、拒絶しないのも林静恒なのだった。
「そういえば最近流行りのバスフレグランスがあって、一緒に試してみない?残念ながらゆっくりバスタブに浸かる時間はなさそうだけど……」
こうして林静恒は普段より20分ほど遅く家を出る羽目になったのだった。


「おや統帥、なんだか今日は華やかな匂いがしますね。オーデコロンを新しくしましたか?」
余計なことを言い出すことで右に出る者はいない部下ことトゥランがさっそく一方的にしゃべりかけてきた。
一瞬警戒した林静恒であったが、幸い今朝のトゥランの関心はあらぬ方向には飛んで行かず、最近何度か"遊んだ"女の子の香水がどうだこうだという話を延々と聞かされることとなった。普段であれば一言で黙らせるところだが、朝も早くからバスルームの甘ったるい香りの中で夫と睦み合っていた己のことを思えば、傲岸不遜な林将軍の辞書にも内省の二文字が書き加えられるのも道理であった。

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