忍者ブログ

中国のBL作家摘発のニュースに関する私見

中国、BL作家を一斉摘発 若者価値観に危機感か」という日本語の記事が話題になっており色々思うところがあったので記事を書きました。

【前提① 海棠文学城とは】
今回摘発対象となった作家さんたちが書いていたのが台湾の小説プラットフォーム海棠文学城です。
ご存知の方も多いと思いますが中国はBLに限らずどのジャンルでも性表現は禁止で、一方、海棠は台湾のプラットフォームなので性表現ありの作品が発表できます。なので中国国内では書けない性描写ありの作品を海棠で発表していたというわけですね。
ちなみにこのニュースを見た人が、自分の好きな作家さんが心配とか、中華BLって流行ってるよね?となってるのを見かけますが、墨香銅臭先生やpriest先生など小説の日本語版が出ている作家さんはほとんどが晋江文学城の専属です。(肉包不吃肉先生は契約終了したんだったかな?)
晋江は中国国内のプラットフォームの中でも特に性表現に厳しいと言われています。だから晋江が大丈夫というよりは、規制によってすでにだいぶ締め付けられたあとと見る方が良い気がします。


【前提② BL作家逮捕事件】
これ以前の有名な事件としては、作家の天一氏が逮捕された事件と深海氏が逮捕された事件があります。
「BLと中国 耽美(Danmei)をめぐる社会情勢と魅力」に詳しいですが、同著者のウェブで読める論文「B L 小説を原作とした中国ウェブドラマに見られる適応策」でも触れられているので、ここでは詳細を割愛します。


【前提③ キーワードは「わいせつ」と「販売」】
BL作家逮捕のニュースの時にBL規制という文脈で語られるのですが、上でも書いたように中国はBLでも何でもエロが禁止となっています。
紙の書籍や映像化作品では確かにBL規制はあるのですが(中国のBL規制 ~各表現媒体による規制の程度の違い~)、逮捕事件に関してはBL規制というよりすでに厳しく取り締まられていた「わいせつ」表現が、最近ではBLジャンルでの取り締まりが目立つようになってきた……という印象です。
とはいえ私もいわゆる「男性向け」ジャンルにあまり詳しくないのであまり具体的なソースを出せずに申し訳ないのですが、「中国のライトノベル市場から見る中国オタク事情」の中で、2014年にデート・ア・ライブが「表紙のキャラの服に露出が多く、青少年に悪い影響を及ぼす可能性がある」として検閲・回収された事件などが紹介されています。


【海棠の作者摘発事件ニュースの時系列】
2024年6月に海棠で作品を発表していた作家が逮捕され、秋頃にツイッターでも話題になる。
https://x.com/whyyoutouzhele/status/1846545565212885490

2024年12月に中文BBCなどで、安徽省の法執行機関が省を越境してBL作家50名以上を逮捕したという記事が出る。
网文作家遭集体抓捕的几大争议焦点:定罪依据、高额罚款以及跨省执法
中国“远洋捕捞”掀文字狱逾50耽美作家遭跨省抓捕
(追記)日本語でも読める記事ありました
中国、なぜ作家50名が逮捕へ:最長懲役5年半。作家たちは"減刑"のため支援募る

2025年6月にBBCで、中国はゲイのポルノを書く女性を取り締まるという記事が出る。
'Every word has come back to haunt me': China cracks down on women who write gay erotica

2025年7月に共同通信から記事が出る。
中国、BL作家を一斉摘発 若者価値観に危機感か

という流れで、事件自体はけっこう前なのになぜ今になって日本のニュースでこんな話題に?と思っていたのですが、たぶん6月にBBCの記事が出たのが大きいのかなと思いました。
あと去年の12月頃は、逮捕者の刑が確定して色々情報が出てきたのだと思います。
(追記)摘発は安徽省と甘粛省で行われていて、2024年の夏~12月の報道は安徽省の件、2025年の6~7月の報道は主に甘粛省の件でした。そこの把握ができてなくてすみません。

共同通信の記事で、「習近平指導部は1月、ポルノ・不法出版物の一掃に向けた工作会議を開き「大衆の反響が大きい問題に焦点を合わせた」徹底取り締まりを要求した。今回の一斉摘発は、結婚や出産を望まない若者の出現など「社会的価値観」が揺らいでいることへの危機感が背景にあるとの見方が出ている。」と述べられていますが、摘発事件は去年の6月なので1月の取り締まり要求の話を出してくるのはあまり適切ではないかなと思いました。取り締まり自体は大なり小なりずっと続いてはいるのですが。
あと「結婚や出産を望まない若者の出現など」の部分は6月のBBCの記事で出てくるGe博士のコメント(「That is exactly what makes danmei so "subversive", says Dr Liang Ge (後略)」の箇所)の流れかな~と思いましたが、もっと直接的にこういう見解を記した文章を見た覚えもあるような気も……思い出したら追記します。
(追記)たぶんNYT中文記事(中国警方拘捕数十名耽美小说作家)の「中国のBL研究者であるキャシー・フーは、BLを抑圧することは「異性愛者女性のコントロールと高度な監督管理」の手段であり、同時に中国の出生率が急激に低下した背景の下で、伝統的な異性愛者家庭構造を強化するためでもあると述べている。」から来ている文章な気がします。


【この事件についての私見】
問題点は色々とあるのですが、個人的に一番びっくりしたのは「国外プラットフォーム」の「Web作品」が原因で逮捕されたことでした。
前提②で書いた事件は、どちらも「中国国内」、「紙書籍」、「販売」、「わいせつ」の四点がそろって逮捕に至ったと認識してたので(無論、刑罰が重すぎる等の問題はあるのですが……)、それが今回の海棠の事件では、大陸中国ではない台湾のプラットフォーム、しかもウェブ小説が摘発対象だったことがかなり衝撃でした。
中国のBL規制 ~各表現媒体による規制の程度の違い~
以前こういう記事を書いたのですが、紙の書籍がかなり厳しく、また国外だったら性表現OKという認識だったので、こんな逮捕がありなら何でもありじゃん……!という衝撃です。


【じゃあどうすればいいの?という人へ】
他国の表現規制の問題、できることが少なすぎて何とも言えないのですが、まずはできるだけ正確な情報を知ることからかなと思います。
上で紹介した「BLと中国」は、個人的に重箱の隅的に思うところはちょっとあれど、規制に関する本の中では入手しやすく基本的な情報がまとまっているので、最初におすすめするならこれでしょうか。
BL規制は確かにあるのですが、日本語圏で雑にセンセーショナルに扱われがちな話題なので、あまりパニックにならずに情報を精査してもらえたらなあと思っています。


【追記① 地方政府の点数稼ぎという説について】
中国警方拘捕数十名耽美小说作家
これもNYT中文版2025年6月の記事ですが、そこで「中国の地方政府は負債が多く、一部の地方は外省企業に対して誇張や捏造の訴えで脅迫して財政ギャップを埋めている。甘粛省と安徽省の警察はいずれも外省の耽美作家を拘留したことがある。」という文章があるので、このあたりの話かと思われます。


拍手[29回]

PR