人間煙火
番外「一年一載」後の燕秋山と陛下。春秋の結末に関するふんわりネタバレかもです。
「盛……先生」
授業の合間の気分転換か、盛霊淵が屋上に行ったのを見かけた燕秋山は、その後を追いかけるようについて行き、控えめに呼びかけた。
「珍しいな、何かあったか」
「少し聞いてほしいことが……」
曲がりなりにも燕秋山と盛霊淵は師徒と呼んでも良い関係であり、しかしながら仲が良いと形容するのも難しい親しさであるため、用もないのに雑談をするようなことはあまりない。勘のいい盛霊淵が気付いた通り、燕秋山は先日の知春との間に起きたことを話したいのであった。
簡単にその時のことを聞いた盛霊淵は、小さく笑った。
「……ほう、なるほど。理屈自体は合っていたようだな」
錬金術の師として修養のアイデアと方法を伝えたのは盛霊淵であったが、何しろ前例のないことであり、できるかどうかはやってみないとわからないと言われていたことであった。
しかし燕秋山は根気よくそれに努め、ようやく最初の小さな何かを掴んだ今、そのことをまず伝えたいと思ったのは盛霊淵であった。
「精々励むことだな」
「……ありがとうございます」
師からの短い訓示を与え、しかし何か思うところがあるのか、盛霊淵はこんな言葉を投げかけてきた。
「人間の一生は短いと思うか」
燕秋山は少し考え、わかりません、と答えた。
いま燕秋山が為そうとしていることは、おそらく凡人の一生では足りず、しかし志半ばで命が尽きても燕秋山はそれまでの日々を慈しむことができるだろうと思う。
では、彼らのように三千年の時を経た時に何を考えるだろうか?成し遂げられたら三千年歩き続けたことを喜び、成し遂げられなかったら徒労となった日々を悔やむだろうか?
「結局は、知春がいてくれて……それなら何でも変わらないのかもしれません」
「これは惚気られたな」
「お宅の宣部長には敵わないです」
「……」
そうして燕秋山は一言、失礼、と断って煙草を取り出した。
興味深そうな目をした盛霊淵に一本くれるかと聞かれたが、宣璣と自分では吸っている銘柄が違うことを思い出し、欲しければ家人のポケットからくすねてくるようにと言って燕秋山は丁寧に固辞したのだった。
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