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買い物日和

烈火澆愁の二次創作。
本当はバレンタインに書こうと思ってたんですが大遅刻になりました。三月!
145章番外ネタがちょっとある単姐と知春の話です。




「単姐、今日は付き合ってくれてありがとう」
「私こそいい気分転換になって嬉しいよ。定年でのんびりできるのはいいけど、少し張り合いが足りない気もしてね」
ジャケットのポケットに入った知春がお礼を言うのに、単霖はそんな風に楽しそうに答える。
無事に仕事を引き継いで引退した単霖だったが、用事で久しぶりにこちらへ来るのに合わせて異控局や特教所にも顔を出してくれたのだった。単霖と話している時に、知春がもしよければ一緒に二人で出掛けないかと申し出たのだ。
当然その場にいる燕秋山も意外そうな顔をしたが、別段単霖と出かけることを拒絶する理由もなく、気を付けて行ってくるようにと送り出してくれた。
「燕校長のあの何か言いたそうな顔!」
その時のことを思い出したのか、単霖が堪えきれないようにくすくす笑いを零した。
「老燕も聞きたいことがあるなら素直に聞けばいいのに」
愚痴っぽく話す知春の言葉を聞いて、単霖はさらに笑った。
「仲良くやってるみたいで何よりだね。今日の買い物も何か彼に買ってあげたいんだろう?」
「……うん」
はにかんだような声で通心草人形が頷く。
二人が歩いているショッピングモールはバレンタインの広告がずらりと並んでいる。
「老燕がきっとお花を買ってきてくれるから、今年は私も何かあげたくて」
燕秋山と知春が再び共に暮らすようになってから、燕秋山は柄でもないがと言いながら何かにつけ知春に贈り物をしてくれる。しかし通心草人形の身では自由に買い物に行くことができないため、単霖と会った時にちょうどいい機会だと頼んだとのことだ。
「もちろん私は喜んで付き合うけど、風神のあの子たちも喜んでついてきてくれるんじゃないか?月兒は自分のことになると無頓着だけど、知春のプレゼント選びならセンスのいいものを考えてくれそうだと思うけど」
「うーん、私もそうは思うんだけど……」
どことなく歯切れの悪い知春が弁明をする。
「あの子たちが小さい頃ならきっと一緒に行っていたし、実際に老燕のクリスマスプレゼントを買いに行ったこともあったけど、何となく今は……」
表情の変わることのない人形がどことなく赤くなったように見え、単霖はふと知り合いのことを思い出した。単霖と同年代の知り合いは、子供が独立して手がかからなくなり、また連れ合いも定年退職したことで毎日二人で過ごすようになって新婚時代に戻ったようだと照れながら単霖に話したものだ。
きっと知春たちも子供たちが巣立ったような状態で、それでなくとも燕秋山と知春は長年の失われた時間と存在を二人で取り戻している最中なのだ。恋人へのプレゼントを選んでいるところを子供たちに見せるのは少し気恥ずかしいということなのだろう。
「そんなに熱い二人の手伝いができるとは、私はずいぶんと光栄な役を仰せつかったみたいだね」
「単姐!」
「よーし、それじゃあ澄ましたあの燕校長が茹で上がりそうになるプレゼントを頑張って選ぼうかね。ネクタイ?それとも下着?」
「単姐~!」
そうして選ばれたプレゼントの中身は、単霖と知春と燕秋山だけが知る秘密となったのだった。

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