忍者ブログ

目的は別

祖師爺と映画デート。
判官の二次創作。
ちょっとだけ番外ネタあり。




松雲山の塵不到の私室。
「今度また映画に行かないかい」
塵不到の腕枕でいつもより少しだけ寝坊をしながら、聞時がぼんやりと返事をする。
「……二人で?」
「そう」
そしてまず最初に自分の口から出てきた質問がそれだったことにはっと気付いたあと、誤魔化すように布団に潜り込んだ。夏樵や周煦、師兄たちと賑やかなのも別に嫌いというわけではないが、せっかく塵不到からの申し出なのだから、という気持ちがどうしても生まれてしまう。
雪だるまのように丸く膨らんだ布団をぽんぽんと叩いてあやし、塵不到は尋ねた。
「見たいものはある?チケットは取っておくから私が決めてもいいかな」
「別にいいけど」
誕生日の贈り物のために好きなものを探るのさえ一苦労だった塵不到だ。どんな映画を見たいと思ったのだろう。
デートに対してのそわそわした気持ちと同時に、聞時の胸には幾分かの好奇心も加わって当日を迎えた。
映画館に着くと、塵不到はスマートフォンを取り出して映画館のアプリを開き、予約した電子チケットを呼び出した。携帯電話の類の扱いは夏樵に教えてもらいながらなんとか、という聞時は、まじまじと訝しげにその手元を見ている。
その視線に気づいた塵不到が小さく笑う。
「ほら、予約がしたかったから」
映画館は多少は混んでいるがチケット売り場で買えないほどではないだろうに、という言外の言葉を読み取ったのだろう。
そして手を引かれて連れていかれた席は、どうも以前来た時と少し様子が違うようだった。二席分が一つになっているようで、他の席との仕切りも大きめになっている。
いそいそと聞時を座らせ、自分も隣に座って塵不到がおもむろに電子チケットの表示を見せてくる。
そこに書かれていた表示はこうだ。
――カップルシート――
「……」
「数が少ないから、予約しないと売り切れてしまうみたいなんだ」
そんなことを言いながら、他の客たちからは完全に死角になる肘掛に置かれた聞時の手を、塵不到がそっと握る。


最終的に様々な理由で聞時は映画に集中できず、なぜこの映画を見たかったのかと映画館を出てから尋ねるはめになった。
返ってきた答えは、できるだけつまらなさそうなものを選んだ、とのことだった。






拍手[0回]

PR