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誰よりも一番

某某の二次創作。
江添お誕生日~。結末後の話です。




江添の誕生日を明日に控えたその日は、至って普通の日であるはずだった。
少なくとも江添はそう思っていた。
「兄さん、散歩行かない?」
「いいけど」
まだまだ冬の寒さが続き、しかし故郷とはまた違う冬に盛望も慣れてきたようで、江添の返事を聞くといそいそとコートを取り出してくる。
今日の夜は二人でゆっくり過ごし、明日の夕食は少し奮発したレストランへ盛望が連れて行ってくれることになっている。二人で散歩に出かけることも珍しくはないのだが、何となく唐突なように感じ、江添は盛望の方を見つめた。
「早く行こ」
「……うん」
自分の誕生日のためにあれこれと盛望が準備をしてくれようとしているせいで少し自惚れているのかもしれない、と江添は自嘲的に小さく笑い、盛望に手を引かれるようにして江添は部屋を後にしたのだった。
二人の住む家から一番近い公園を横切りながら、盛望がこんなことを言い出した。
「やっぱりちょっと寒いね。コーヒーでも飲む?」
「そうだな」
やはり、ただの散歩に盛望がいつもよりそわそわしているように見え、江添は盛望が言うままに従ってみることにした。
二人が入ったのはこれまた普段からよく行くカフェであり、とくに何の変哲もない。ちょうど窓際のカウンター席が空いていたので、江添に席をとっておくように言い、盛望は注文に向かう。
「僕がおごってあげる。カプチーノでいい?」
「何でもいいよ」
「わかった」
江添の可愛い弟ーー彼氏ーーが何を企んでいるのか知らないが、何もなかったとしてもただの幸福な日常があるだけだ。そんなことを考えていると、すぐにカップを手にした盛望が戻ってきた。
「はい、兄さん」
「……!」
テーブルの上に置かれたカプチーノには「Happy Birthday」の文字が書かれていた。隣の椅子に腰かけた盛望が満面の笑みを見せる。
「ありがとう」
「うん」
「嬉しいけど、でも……」
誕生日は明日のはずなのになぜ、という当然の疑問を口にする前に、時計を確認した盛望が江添の携帯電話をとんとんと指で叩いた?さらに疑問は増えるばかりだったが、おとなしく盛望の言わんとすることに従って携帯電話の画面を見ると、チャットアプリに次々と通知が並ぶのが見えた。
誕生日おめでとう、ハッピーバースデー添哥、などなど、彼らの同級生たちからのメッセージだ。
そこでやっと江添は地元と今いる場所の時差というものに思い至った。時差のせいで同級生たちはもう日付が変わっており、その瞬間メッセージを送ってきているのだ。
改めて江添が盛望の方を見ると、照れたようにはにかみながらこう言った。
「……僕が誰よりも一番に言いたかったから」
「ありがとう、望仔」
江添はもう一度そう言い、盛望のこめかみに口付けた。


飲んでしまうのが惜しい気持ちはあったけれど、冷めないうちにとカプチーノを飲みながら、ふと江添は気付いた。
「そういえばこの前の、お前の誕生日の前の日もそうだったんじゃないのか」
「うーん、あの日は僕も忙しかったから」
仕事を終わらせて急いで家に帰り、江添とくっついたまま日付が変わり、翌朝に届いていたメッセージたちを見つけたのだという。そして江添の誕生日に、このままでは先を越されれるのではないかと思うようになったらしい。
「じゃあ、次は俺がお前の一番になる」
「ん、楽しみにしてる」
カップを持っていた盛望の手に江添の手のひらが重なり、二人はもうしばらく暖かい店内を味わうことにしたのだった。





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