手が止まる
究惑にテーマパークデートしてほしいな~という話です。
「休みの日にもこんなことを?」
「普段の訓練とは違うだろう?」
そう言って秦究は游惑の手を引いてアトラクションのある建物の方へ連れて行こうとする。
今回の休暇は二人でとある人気テーマパークへ行こうということになったのだった。見るからにはしゃいでいるのは秦究の方であるが、游惑とてまんざらではなく秦究に有無を言わさず付けられたパークのキャラクターの耳がついたカチューシャを大人しく付け、首からはポップコーンの入った大きなバケツを下げている。
秦究が連れて行こうとしているのは、シューティングゲームのアトラクションだった。かなり人気のようで、しっかりと行列ができている。
游惑が休みの日にも、などと零したのは狙撃訓練など普段から散々やっているせいである。もちろん本気の拒絶などではなく、浮かれた恋人に少し呆れて見せているだけだ。
他愛ない話をしているうちに行列は進み、游惑たちの番となった。
このアトラクションはライド系でもあり、五、六人程度が一グループとなって乗り込み、移動しながら出現する大量の敵キャラを打ち落としていくという仕様だ。わいわいと他の客たちが楽しんでいる中、おもちゃの銃を手にした二人の目はやや真剣なものになる。
乗り込んだコースターが動き出し、数体の敵が出現した。
「………」
出現したのも束の間、他の客たちが銃を構える暇もなく撃ち落されていく。
ぽかんとしている同乗者を余所に、游惑と秦究は次々と得点を上げていき、道のりの半分くらいまで来たところで自分たちの状況に気付いて銃を下ろした。奇しくも二人同点である。
謎の凄腕スナイパー二人組の気遣いにより、他の客たちはようやくゲームを楽しむことができるようになったのだった。
「普段の訓練じゃないって言ったのは誰だったか?」
「あなたもかなり真剣でしたよ、大考官」
しばし休憩したのちに、秦究がこう囁いた。
「このゲームでは最後にラスボスが一体出てきて、一番たくさん弾をぶち込んだ人の勝ち。……どう?」
「望むところ」
そうして派手な音と光とともに、最後の標的が現れた。競うように銃を撃ち込んでいく二人だったが、ふと秦究の指が止まった。
「……?」
游惑は訝しく思いつつも手を止めることはなく、勝者は游惑となったのだった。
「拗ねてる?」
「拗ねてない」
秦究に尋ねられてそう答える游惑だが、やはり表情は面白くなさそうだった。顔を覗き込んでくる秦究と目を合わせ、游惑は短く告げた。
「手加減されるのは好きじゃない」
その答えを聞いて、秦究から小さく笑いが漏れた。
「なるほど、我らが大考官はそうでなくては。……でも、手加減じゃないんですよ」
游惑の手を握り、指を絡め、秦究はこう言った。
「ただ少し、彼氏がかっこよくて見とれてしまっただけ」
「……」
甘く囁かれる秦究の言葉に絆される游惑ではなかったが、今度は游惑の方が秦究の手を引いて観覧車へと向かうのだった。そこならば誰に邪魔をされることもなく好きなだけ相手のことを見つめていられる場所だから、などと游惑が言うことは絶対になかったが。
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