二人じゃできない
游惑お誕生日の話です。色々と番外ネタ。
游惑の誕生日は秦究と二人きりで過ごすはずだ。
老于以外の誰もがそう思っていたため、于聞が謝り倒しながらメッセージを送ってきた。
『バレンタインの時懲りたでしょって言ったのに……!』
于聞はケーキやら食事やら何やら色々とすでに予約をしてしまったのだと何度も頭を下げるスタンプを送ってくる。
游惑の家のソファーで二人で並んでメッセージを眺めながら顔を見合わせた。
「どうする?」
游惑としては秦究が二人で過ごしたいと駄々をこねられたら于聞たちの誘いを断るのもやぶさかではないと思っていたのだが、意外な返事を寄越された。
「いいよ、一緒に行こう。せっかくの家族の心遣いを無駄にするのも悪いしね」
「いいのか?」
意外だという表情を隠そうともしない游惑が聞き返すと、秦究はニヤニヤと笑う。
「『絶対二人で過ごしたい』って言ってほしかったんですか、大考官?」
調子に乗るなと言いたいところだが、游惑自身もそういった返事を期待していなかったわけではなく、ただ黙って秦究を睨んだ。そんな游惑の心中をどこまでわかってか、指を絡めながら手を握り、秦究は付け加えた。
「勿論二人きりの誕生日も魅力的だけど、少し二人じゃできないことをしてみようと思って」
「?」
そうして迎えた誕生日当日。
ドアを開けてやってきた二人を出迎えた于聞は、嬉しそうに二人を客間へと通した。
「兄さんたち、無理を言って来てくれてありがとう」
「いや、こっちこそ色々準備をありがとう」
素直に游惑に感謝を告げられて、于聞は照れたように笑った。
「ほらみんな座った座った!」
待ち構えていた老于も満面の笑顔で手招きをする。
その様子を微笑ましく見守っていた秦究だったが、わざとらしく咳払いを一つした。
「時に弟くん。我々を見て何か気付くことはないかね」
「えっ……?」
すでに兄の彼氏としてそれなりに仲良くしていた于聞と秦究だったが、やはりファーストコンタクトが恐ろしい試験の受験生と試験官だったことが尾を引いているのか、突然の問いかけに于聞は緊張で体を強張らせた。問題を解くヒントを見つけるが如く目を皿のようにして二人の姿を見回し、恐る恐る挙手をして回答した。
「髪型を変えた……?」
「……」
「……」
二人の間にいる游惑は、恋人がやりたかったらしきことに思い至り、大人げなさにため息をついた。
秦究の誕生日の時に二人で誂えた薬指の指輪。
きっとこれを于家で見せびらかしたかったのだろうが、秦究は于聞にそれを見抜く能力が若干欠けていることを予想できていなかったというわけだ。
恋愛ボケで于聞を困らせるなと叱ればいいのか、それともさっさと自分で見せつけてやるべきなのか、どちらにせよあまり選びたくない選択肢だと游惑が考えていると、ぐいと手が持ち上げられ、我慢のできなかった秦究による強引な答え合わせとなった。
キッチンの方からは皿が割れる音が聞こえ、于聞はおお、と呟いて拍手をする。
「受験生の学力を見抜く能力が衰えてきたんじゃないのか?」
皮肉っぽく游惑が耳元で囁くが、秦究は意に介さずだ。
「まあ、思ってたのとはちょっと違うけど、お披露目はお披露目ということで。それに隣にはいつも鍛え直してくれる上司がいるからね?」
そうして急遽、誕生日ケーキのプレートにはハッピーバースデーの文字の下に小さな字で于聞による手書きの『婚約おめでとう』が付け足されたのだった。
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