北斗の感想文
ところで梦溪石先生といえば千秋の日本語版が9月に発売ですね。めでたい!
北斗は民国時代のお話と聞いて、民国ものどこかで読みたい~と思ってからずっと読みたいと思っていたのでした。
続きでネタバレあり感想です。事件解決ものの作品でもあるので、各事件の結末とかにもちょっと触れてるかも。
舞台は租界時代の上海です。あらすじとしては、ハンサムな警察官・凌枢がダンスホールで顔馴染みの踊り子たちと戯れていると、かつての同級生・岳定唐が外国の警察と一緒に現れて、昔の恋人が殺害された件の容疑者として凌枢に嫌疑がかけられていることが判明するところから話が始まります。
最初はこんな感じで敵対とまではいかなくても敵味方って感じで始まる二人なのですが、面白いところとしては二人とも姉がいて、どっちの姉も自分の弟より相手をスーパー猫かわいがりしてるところですね。自分の弟と比べて相手を誉めまくり、実の弟に(どっちが実の弟なんだか……)と思わせる強い姉たち笑。
一巻の事件では容疑者・凌枢と警察側(警察ではないんですが警察顧問の法学教授)岳定唐という関係性から始まって、容疑が晴れたあとは大人の事情で岳顧問先生の秘書みたいな形で出向することになってオフィシャルにバディになります。同級生バディという二人のかけあいが本当に楽しい!同級生時代はお互い気が合わないと思ってたけど、すごいいいコンビなんですよね。しかしほのぼのな関係のままではいかず、まず第一に岳定唐→凌枢への秘めた思いがデカすぎる。一巻の事件で殺された凌枢の元カノの杜蘊寧のことを岳定唐も好きだった恋のライバル関係と思われてたけど、実は岳定唐がずーーっと好きだったのは凌枢なんですよね。BLなのでそりゃそうだという感じですが、普段はクールだし、凌枢のことが好きでも別にすごい甘やかすとかではなくめちゃ素っ気ない(でもそういうとこが好き)岳定唐が、たまにめちゃくちゃ情熱的な文章で凌枢に対する思いの丈を心の中で吐露するのでヒエ~~となります。ロミオとジュリエットが好きだったりたぶんけっこうロマンチストですよね。凌枢の方がプレイボーイだけどデリカシーがない笑。でもデリカシーがないのは岳定唐に対してだけな気もするので気を許してるってことかも?そして深刻そうなことはなにもなさそうな顔をしてる凌枢だけど、元々は岳家に劣らないお坊ちゃん育ちで、父親の死後に家が没落したあと姉が全財産をかき集めて留学に出したはずだったのにその経歴がどうも怪しく……?という凌枢サイドにも過去に何かありそうなのがちょっとずつ匂わされます。三巻で岳定唐の祖母の実家に二人で行く話でやっと凌枢の過去で何があったかわかり、ちょっとだけ進展があって、四巻で凌枢が自分の感情と岳定唐の思いと向き合って受け入れるところはほんと泣いてしまいました。なんかすごいでかい大事件がきっかけで衝動的に……とかじゃなくてじわじわとお互いのことを考えていた末に……なのがめちゃくちゃよかったです。五巻になると凌枢がちゃんと恋人の自覚出てきて岳定唐の方がびっくりしてしまうくらい焼きもちを焼いたり二人の生活のことを考えてくれてるのがわかり……!
ところでちょこちょこツイートしていたのですが、岳定唐の凌枢に対する感情が激重いのに溺愛って感じではないところが大好きで、だらしないところやテキトーなところは普通にイラっとしてるのほんと好き!一番好きなのは敵と一戦やりあった時に塩漬け魚まみれですごい臭いになってた凌枢に対して「鼻をつまむ動作を我慢するのに凌枢へのすべての愛情を動員する必要がありそうだと感じた」って思ってるとこと、せっかく凌枢からキスしてくれたのに(しかも「いいよ、怒らないで。帰ってお前の処分に任せよう」 という好きにしていい宣言つき)(この時まだ寝てないのです)、「塩漬け魚に食べられた気分」とか思っちゃう岳定唐!!好き!!!ここで凌枢に対してlove……とはならず、普通に臭いものは臭いと思う岳定唐が好き……。でもその夜は言質をとったとばかりにしっかり法に処す岳定唐……。
北斗の時代背景は列強が中国を割譲し、日本も満州を侵略しているような時代で、とくに凌枢が隠していた傭兵時代はまさしく日本との戦いで、全然抗日作品って感じではなくかなりやさしめに書いてあるとは思うのですがコメント欄とか見ると旧日帝の侵略はまだ全然読者の人たちの祖父母世代の話でその記憶や感情が書かれたりしているので、日本人が無邪気に岳凌もえ~~って言うのがちょっと憚られる気持ちがどうしてもあるんですよね。とはいえ岳凌はめちゃくちゃ最高のカプなのですが……。
事件解決ものとしては、最終巻の事件があれこれ腑に落ちないまま(私が読み取れてないかもですが)駆け足で終わっちゃった感じがあり、大作!傑作!という感じにはならなかったものの、各巻の事件を少しずつつながりのあるオムニバスだと思って読むとよくできててBLとしても良作でした。事件の中では一番印象的なのは何幼安の事件で、色んな人物が出てきたけど何幼安が一番苛烈で信念がすごかったな……ということを思い出します。そしてそれの根底にあるのも、祖国が日本に侵攻されないようにという愛国心で。番外で書かれてた後日譚もとても好きだったんですが、そこに何立心も出てくるのもこの作品における何幼安の存在感の大きさだよなあと思ったのでした。
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