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家族の日、恋人の日

烈火の二次創作。
母の日~520の春秋です。
番外のネタバレあり。




「母の日のお花です!いつもありがとうございます!」
張昭が大きな声でそう言うと、その言葉に続くように谷月汐がカーネーションの花束を差し出した。
ポケットに収まっていた通心草人形がぴょんと飛び出てきて、身長の何倍もある花束を支えようとするので、燕秋山がすかさず手を差し伸べる。
「ありがとう、二人とも。二人からこんなに立派なお花をもらえるようになるなんて、本当に嬉しいよ」
知春が感激した声を出すと、張昭と谷月汐が照れくさそうに笑った。子供の頃から母の日の贈り物をしてきた二人だが本当にささやかなもので――もちろん知春はとても喜んでいたが――、価値は値段の多寡ではないが、ずっと子供だと思っていた二人が立派な風神の隊員となったことが改めて知春を喜ばせたのだった。
知春たちの様子をやれやれという顔をしつつも微笑ましく見守っていた燕秋山だったが、少し遅れてやってきた王澤が同じようにカーネーションを持ってくると、「お前みたいにデカい子供を生んだ覚えはない」といって追い払おうとした。そんな燕秋山を叱り、知春が王澤からの贈り物を受け取る。
要するに風神の面々は燕秋山と知春が戻って来たことが嬉しく、何かと行事にかこつけては祝い事をしようとしているのだった。
「ところで燕総…教官からは何もないんですか?」
わざとらしく王澤がそう尋ねると、燕秋山が素っ気なく答える。
「母の日は母の日で、妻の日じゃない」
「もう!老燕!」
部下たちの前で意地の悪いことを言うなという意味と、臆面もなく知春のことを妻と呼ぶ照れが混じった声で知春が燕秋山をたしなめ、手の甲をつねった。知春を皆に紹介した時から「嫂子(あによめ)と呼べ」と言ってのけた燕秋山であるので今さらも今さらであるのだが。
「それにすぐに……」
「?」
燕秋山は何かを言いかけて知春の方を見、そこで言葉を切った。
「なんでもない。仕事に戻る」
「はいはい」
その日、いつも厳格な燕秋山教官が両手に大きな花束を抱えて帰っていく姿が目撃され、養成所の学生たちをざわつかせたのだった。


家に帰ったあと、知春に代わって花瓶にカーネーションを飾ってやっている燕秋山を見ながら知春が尋ねた。
「今日のあの時、何を言いかけたの?」
「うん?」
「秋山、ごまかさないで」
とぼけようとする燕秋山を、通心草人形の小さな手が叩く。その手を優しくつまんで降ろさせて、今度は髪に口付けた。
「……すぐに五月二十日が来るから」
「あ……」
そんな日があることをすっかり忘れていた知春は、恋人が恋人らしいことをしようとしてくれていたことに気付き、ぎゅっと腕にしがみついた。通心草人形にもう一度唇を寄せようとした燕秋山を押し止め、少しだけ甘えた口調で知春が言う。
「本体に」
一瞬驚いたような顔をした燕秋山は、しかしすぐに口元を綻ばせて探るように手を伸ばして微かな感触を確かめ、その指先にそっとキスをしたのだった。


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