また一年
退休後のとある年越し陸林です。
この日は今年最後の日ということもあり、銀河城でも年を跨いで中心地で賑やかなイベントが行われていた。
「行きたかった?」
「もう少し若かったら行きたかったかもしれないけど、今はこうして君とのんびり過ごす方がいいな。うーん、僕もそろそろ枯れてきたのかもしれない」
ソファーに掛けながらモニター越しに街の様子を見つつ林静恒の方へもたれかかってくる陸必行がそんなことを言うので、彼の退任以来毎日様々な方面で苦しめられてきた林静恒は呆れた声で言った。
「どの口でそんなことを言ってるんだ」
「愛する夫に毎朝行ってらっしゃいのキスをしてあげてる口だよ。ああ、陛下。君はそろそろおねむかな?」
キッチンでいつもより少し豪華な食事を堪能していた『陛下』が、とことことやってきて陸必行の膝の上に顔を伏せた。毛並みに手のひらを滑らせながら頭を撫でてやっている陸必行を見て、湛盧が不満そうに口を開いた。
「陸校長、我が家のポップコーンを守ってくれないだけでなく、あなたの衣服を毛だらけにしてしまうのですか。ペットに向いている種についての意見を更新されることをお勧めします」
「連盟の至宝が服についたペットの毛の心配をするのはおよしよ、湛盧宝貝」
「先生は何かご意見はありますか」
「承影にやらせればいい」
「洗濯をですか?一般的な洗濯なら承影に任せても構いませんが、先生方の寝具など特殊な洗濯は……」
「口を閉じろ。今日はもう休眠していい」
「はい。先生、校長、よいお年を」
そして湛盧は素直にリビングを去っていったのだった。
林静恒はそれを見送ったあと、陸必行の膝にいる陛下の顎を撫で、自分の膝の上に抱き上げた。
「おや、僕と君とで陛下の争寵をするかい?」
「……」
陸必行の冗談には答えず、林静恒はそれなりに大きい犬をものともせず抱えた上げたままで陸必行の膝の上に横になる。
「なるほど。君がそっちのやきもちを焼いてくれるなんて、僕もまだまだだったね」
陸必行は満足そうな声音で今度は林静恒の髪を梳いてやった。
「静恒、今年もいい年だったね」
「うん」
「第二星系理工学部にやっと足を運べたのも嬉しかったな」
林静恒の提案で念願のハネムーンに出かけた二人は、他の星系の様々な地へ足を運んだのだった。
「どうして白銀三が俺たちの旅行先に口を出すんだ?」
「今日の君は言うことがいちいち可愛いね。無人島リゾートで二人きりでたっぷり愛し合ったりもしたじゃないか」
もちろん決して林静恒にとっても悪い思い出ではないが、様々な悪態が口まで出かかり、林静恒は黙って犬を撫でた。
「しかししばらくはこんな風に出かけるのも難しいかなあ」
言葉とは裏腹に陸必行の声に残念そうな雰囲気はなく、それは来年から星海学院の再建が本格的になるからだった。
「楽しみ?」
「もちろんだよ。入学式が楽しみだね、理事長」
人生の第二幕に足を踏み入れたばかりの陸必行のやりたいことは尽きず、林静恒とともに一つ一つ数え上げているうちに、銀河城の夜空に年越しの花火が上がるのだった。
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