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年の初めの

殺破狼二次創作。
義父お誕生日!ということで本編18年後よりあとの長顧と沈先生の短い話です。




ある年の正月に、沈老人が侯府へ自作の酒をたっぷりと運んできたのを見てああ恥ずかしいと沈易が嘆いていたのはどれくらい前のことだっただろうか。
今、江南別荘へ車に乗せた酒を運んでやってきた沈易を見て、長庚はそんなことを考えた。
「沈将軍、お気持ちは嬉しいのですが義父が調子に乗ってたくさん飲むと困るので……」
隠居した代理皇帝とはいえ太上皇である。沈易がきらびやかで豪奢な贈り物を顧昀のところへ持ってくるのも想像しがたいが、手作りの酒だけを携えて正月に訪ねてくのも彼か彼の父親くらいしかできない芸当だろう。
「おっ、季平。いつの間に引退したんだ?お前最近ますます親父さんそっくりになってきたな」
長庚の後ろから、顧昀がひょいと顔を出した。
「くだらないことを言うな、子熹」
しかし反論するのは沈易ばかり、長庚と一緒にやってきた陳軽絮は顔を見合わせて苦笑いした。若い頃はあれこれと親のなすことをぼやいていたのが、結局は親と同じくらいの年になると似たようなことをやり始める。そんな話は世間では珍しくない。陳軽絮の話では、一年ほど前から突如酒造りに凝り始め、顧昀に飲ませたくて仕方がなかったらしい。
「長庚、見たか。長年の親友がこうして手作りの酒を持ってきてくれて、これをどうして断れようか?」
「仕方がないなあ」
困ったように笑う長庚を見て、顧昀は思ったよりあっさりと勝利を勝ち取ったことに喜ぼうとしたが、長庚はそっと顧昀の手を握って指を開かせた。
「一、二、三杯。今年は特別に三杯まで飲んでもいいことにしてあげる」
「お前にはこの酒の山が見えないのか?勿体ないだろう」
二杯から三杯に増えたところでどう喜べというのだろうか?
「みんなに振舞ったらあっという間だよ。少し贅沢に料理にも使わせてもらおうか。それなら子熹の口にも入る」
「……」
揚げ足取りをさせたら右に出る者がいない顧大帥が可愛い息子に言いくるめられているのを見て、沈易はそれでこそ酒を持ってきた甲斐があったものだと笑ったのだった。


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