Merry little christmas
風神時代の燕秋山と知春のクリスマス。二人がいつから付き合い始めたとかは完全に勝手な想像です。
「燕隊長、これはお年頃の俺たちが買ってうっかりここに置き忘れた雑誌です。うっかりそのまま忘れてしまったものなのでこれは一体なんだろうと思って隊長がうっかり読んでしまうこともあります」
「……」
職場の燕秋山の机の側でわざとらしい説明台詞をぺらぺらと早口で伝えたあと、王澤は早足で去って行ってしまった。
部下たちのことをよく見ている燕秋山は、これがどのような気遣いなのかをきちんと悟っており、つまらないことをするなと怒ることもできずにクリスマスカラーに彩られた数冊の雑誌をちらりと眺めた。
燕秋山と知春のクリスマスといえば、殊に谷月汐と張昭の面倒を見るようになってからは子供たちとパーティーをするのが常だった。しかし彼らが世間的にはもはや『子供たち』とは呼べなくなってきたこの頃、妙な気の回し方を覚えたのだろう。何やらこそこそと王澤を巻き込んで相談事をしていたのを燕秋山は見かけたことがあった。
つまり、今年のクリスマスは彼らのことは気にせずに、知春とクリスマスデートをしてこい、ということなのだろう。雑誌の表紙にはきらびやかな文字でクリスマスのデートスポットという文字が躍っていた。
本音を言えば、燕秋山とて全く興味がないわけではない。何より、
(知春が喜ぶ顔が見られるならどこにだって連れていってやりたい)
そんなことを思う。
二人は学生時代の頃から恋仲と呼んで差し支えない関係で、外出があまり好きではない燕秋山だったが、当時はそれなりに恋人らしいデートなどをしたこともあった。しかしここ最近はそういった浮かれたことからも遠ざかってしまった気がする。
現在の知春との穏やかでお互いを慈しみ合う生活も幸福であったが、燕秋山はぱらぱらと雑誌をめくりながら、このような場所で知春と過ごす自分をふと想像してみた。
「秋山、どうしたの。私を連れていってくれるの?」
「……!」
普段なら知春の気配に気付かないはずがない燕秋山だったが、物思いに耽っていたせいだろう。慌てて手にした雑誌を机の隅に押しやるが、知春は笑顔で期待の眼差しを向けてくる。
観念した燕秋山は知春に言った。
「ああ、そうだよ。お前はどこに行きたい?」
「そうだなあ、どこも素敵だけど……」
知春の指先がページをめくり、しかしそのまま閉じられてしまった。
「これがあの子たちや王澤が用意したものじゃなくて、秋山が私のために買ってきたものならどこかに行ってみたいな」
「……知春」
結局は知春も燕秋山と同じくらい何もかもお見通しということだ。
「当たりだった?ごめんね、さっきのはちょっと意地悪を言っただけで、私は何でも嬉しいよ」
先ほどの言葉が意地悪に分類されるなら、世の中の人間の九割は悪魔になるだろう、と知春の笑顔を眺めながら燕秋山はつまらないことを考えた。
「知春、これは王澤に返してくる」
「……秋山?」
「俺が計画するところからやり直させてくれ」
「うん!でもせっかくだから二人で色々考えよう」
その結果、今年も結局みんなでパーティということになっても二人らしい過ごし方だろう。
このあと張り切って情報を集めた知春がどこで間違った知識を仕入れたのかラブホテルに行ってみたいと言い出し、すっとぼけた燕秋山が何も言わずに同意したせいで現地で実態を悟った知春に怒られる一幕があったが、それはまた別の話。
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