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We've Only Just Begun

大哥二次創作。
3巻最初あたりと結末のふんわりネタバレかもです。
そのうち続きを書きたい。






『ポスドクに休みがあると思うのか』が口癖の魏謙が珍しく二人で旅行にでも行くかと言い出したのを魏之遠が聞き逃すはずはなかった。大学院に進学したあと博士課程を無事修了した魏謙は、教授に請われるまま研究生活を続けていた。あのワーカホリックの魏謙が仕事をやめると言い出した時は少なからず皆驚いたものだが、蓋を開けてみれば大学院でもそのハードワークぶりは健在だったというわけだ。
リビングのソファーにどっかりともたれかかりながら呟いた魏謙に、素早く擦り寄りながら魏之遠は尋ねた。
「もちろん行くよ!いつにする?どこか行きたいところがあるの?」
スケジュール帳をチェックしながらその場で休暇申請のメールを送らせる勢いで魏之遠が捲し立てるので、魏謙は思わず苦笑した。
魏謙は横目で魏之遠を伺って少し口籠りながら、こんなことを言った。
「行きたいところ……は、ある」
「!」
娯楽には全く興味がなくデートへどこに行ったらいいかわからないほどだった魏謙に、旅行で行きたい場所があるとは。
「……お前が四年間住んでたところ」
「兄さん」
魏之遠が四年間留学をしていた間の二人の関係というのはなんと言い表していいのかわからない微妙なものだった。険悪だったわけではないが魏謙は明らかに連絡を取るのを避けていたし、しかし数少ない電話で交わした会話は暖かな思い出として魏之遠の記憶に残っている。
そして魏之遠は異国の地で荒れ狂いそうになる魏謙への思慕と向き合う方法を覚えたのだった。
そんな場所へ行ってみたいと魏謙の方から言い出したのだ。
「うん、行こう。僕が全部案内できるし、兄さんを連れて行きたいって思ってた場所もあるんだよ」
「そうか」
こうして有能な秘書よろしく魏之遠が慌ただしく手配をして、二人きりの数日間の海外旅行と相成ったのだった。



二人で空港にやってくると否が応でも思い出すのは魏謙が魏之遠を見送った時のことで。
「……ねえ」
「……」
チェックインを済ませてセキュリティの前まで来ると、魏之遠が笑顔のまま魏謙の方を見て両手を広げて見せた。
「ハグ」
「……別に今回はお前を送りに来たわけじゃないんだが」
そう言いながらも魏謙は渋い顔で控えめに魏之遠の背中を抱いてくれた。傍目にはこれから出発する相手を抱擁で送り出す様子に見えることだろう。
「これからお前と搭乗するのに間抜け過ぎる」
「あはは、本当だね」
魏謙の呆れた声にも魏之遠は嬉しそうなままだ。
二人が抱き合っていたのはほんの数秒のことで、魏謙はすぐに体を離すと自分のスーツケースを引いてさっさと歩き出してしまった。
当時、すぐに背を向けて立ち去ったように見せて、実は魏之遠が無事に飛び立つまで空港のファーストフード店にいたのは魏謙だけが知っている秘密だ。今さらこんなことを打ち明けるような殊勝な性格を魏謙は持ち合わせていない。
本当はあの当時の葛藤を何もかも魏之遠に打ち明けて清算をするべきなのだろうか?と魏謙が何度か考えたことがある。しかし魏謙の性格からして難しいことである上に、単に魏謙が楽になりたいがゆえのエゴではないかという気もする。
「小遠」
魏謙は振り返って魏之遠を呼んだ。大きな子犬のように走り寄ってくる魏之遠の姿を見て、魏謙はふっと表情を緩ませる。
考えても詮無いことだ、自分たちには結局『これから』しかないのだから。

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