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英雄の墓

殺破狼二次創作。
顾昀生日快乐~。本編後のどこかの二人。





誕生日を祝う食事を済ませれば、あとは顧昀の私室にて二人きりの時間だった。
卓上にはこれでもかと贈り物が積まれ、それは西の国々で採れる貴重な宝玉をあしらった装飾品だったり、高級な錦で織られた着物だったりした。普段はまるで僧侶のように質素な生活をしていることで知られる長庚が一年の中で個人的な浪費をするのはこの日だけど言っても過言ではない。
長庚が見守る中、苦笑しながら顧昀は贈られた一つ一つを身に着けて見せる。
「気持ちは嬉しいが毎年やりすぎなんじゃないのか?」
「あなたも昔色々と贈ってくれたから、こういうのが好きなのかと思って」
「あー……あれはだな……」
長庚が言っているのは黙って西域へ行ってしまった時のことだろう。当時は長庚に対して素直に誠実になるということを知らなかった顧昀は、散々余計なことを手紙に書いた上で言い訳のように豪奢な品をまだ少年だった長庚に贈ったのだった。
「というのは冗談で、着飾った子熹が見たいだけだよ。あなたの誕生日にかこつけて私の我儘を聞いてくれると嬉しいな」
そう言って甘ったるい笑顔で微笑まれるのに顧昀は滅法弱い。
細かな細工が施された髪飾りを手に取って、長庚に渡した。これはお前がつけてくれ、の意だ。顧昀の言わんとすることを悟った長庚は喜色を浮かべながらいそいそと顧昀の艶のある黒髪を編み込み始めた。
料理を始め、医術から裁縫から何でもこなせる器用な長庚の指は、顧昀の髪に銀を散りばめながら編んでゆく。
「そんなに細かくされたら解くのが大変だろ」
「解くのも僕だから構わないでしょう」
「ふふ、まあそういうことだな」
当然、長庚のこの返事を期待しての顧昀の挑発である。若い頃はそれなりに遊んできた顧昀であるため、情人に服や身に着けるものを贈る時に添える意趣は心得ている。予想外だったのは自分がそれをされる側になってしまったことだが、長庚の満足そうな顔を見ていればそれもまんざらではない。
「『西北一枝花』を自分のためだけに飾り立てられるなんて、まるで僕の方が贈り物をもらっているみたいだ」
時折髪に口付けながら、長庚がそんなことを言う。それを聞いた顧昀は目を伏せて言った。
「西北一枝花、か。実はそろそろそれから引退しようかと思っててな」
「へえ、子熹にしては謙虚なことを」
「馬鹿、『花』の方じゃない」
「……それ、は」
花の方ではない、ということはつまり西北の名を冠するのをやめるということであり、西域で北疆で砂を食べて生きてきた顧大帥がその生き方をそろそろやめようと言っているのだ。
以前から顧昀は玄鉄営の軍事指揮権を三つにわけて任せ、自分は水のきれいな山村で暮らしたいという話をしていた。長庚は必ずそのような世にすると誓ってはいたが、されど常に前線に立つ顧昀を守ってあげられるわけではない。歴史上の名将でそんな生活に戻って来られた者は何人いただろう?こんなことを考えて思わず泣きそうになった日のことがまるでつい昨日のようだ。しかし、今それに手が届こうとしている。
「子熹」
「うん」
「それなら私もあなたに合わせて準備をしようと思う」
「……そうか」
言葉を多く重ねずとも、長庚が言わんとすることはわかった。外遊から戻ってきた太子殿下はずいぶん逞しくなったと聞くし、その計画は以前から長庚の頭の中にあったのだろう。
「じゃあ今度の誕生日の贈り物はそれを楽しみにしてるかな。来年か、いや再来年か」
それから数年後の誕生日には、まだ返却されていない烽火票の使い道について楽しそうに語り合う長庚と顧昀の姿が見られたのだった。



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