ここまでは家族の親愛
陸林義兄弟ifの現代AU(舞台不明)です。
続きをそのうち……書きたい……。
陸必行が生まれた時、林静恒は有名進学校中等部の生徒で、全寮制の寄宿舎で生活を送っていた。
陸信とミュラー夫妻に念願の実子が授かったのは良いが、やはり少し悩んだのだという。陸信の亡き親友である林蔚の子を養子として迎えたのは良いが、実子が生まれるとなると気を付けてはいてもどこかで差をつけてしまうのではないか、例え夫妻がどんなに気を配っていても林静恒本人が負い目に感じるのではないか、ということだ。とくに格登家に半ば強引な形で引き離されることとなった双子の妹のことを考えると、弟ができて嬉しいだろうと無邪気に言うのは憚られたようだ。
もちろんそんなことは林静恒本人には告げず、陸信がいつもの調子で弟か妹ができるかもしれないということをそれとなく話すと、聡い林静恒少年は自分のことは気にしなくて良いと言ったそうだ。
というのはいずれも伝聞であり、陸必行の物心がついた時には両親は彼を溺愛していることを隠そうともせず、それでいて林静恒も同じように家族として愛されていた。だいぶ年の離れた兄は夏と冬の休暇には学校の寮から帰ってきて、両親のようにべたべたするようなことは決してなかったが、幼い陸必行に付き合ってゲームをしたり公園に遊びに連れていってくれたりした。
自分のことは多くは語らず、おしゃべりも好きではないようで、しかし年が離れているせいで喧嘩をするようなこともなく、いつも静かに陸必行のことを見守っていてくれた。
繋いだ手の温もりは陸必行が大きくなってからもよく覚えているし、いつでも林静恒は陸必行にとってやさしい「お兄ちゃん」だった。
「それで、僕が静恒と恋人になれる可能性はあると思う?」
「ゼロだろ」
ハイスクール生活もあと数日となったとある日、陸必行が同級生である周六に尋ねたところ、即答された。
「年が離れすぎ、学生と社会人、ていうか兄弟だし。あの人の性格的にもお前のこと恋愛対象として見るの無理だと思わないか?」
「でも今恋人いないみたいだし」
「それはお前が付き合える理由にはならないよな?」
頭ごなしの周六からの否定を受けて、明るく前向きな陸必行もさすがに口を尖らせた。
「もうちょっと励ましてくれてもいいんじゃない?」
「はいはい、頑張れ頑張れ。」
周六はこの友人がそこそこ前から血の繋がらない兄に恋愛感情を持っていることを知っており、最初は無謀な恋の様子が面白く、からかったりけしかけたりしていたのだが、陸必行があまりに真剣かつ本当に兄と恋人になれると信じているのに呆れ、近頃はこのような対応になっている。
「まあ進学を利用して同居だっけ?そこで何かあるといいな」
「へへ、そうなんだよ。お兄ちゃんは昔から寮暮らしで進学も就職も家から離れてたから、実質一緒に暮らすのはこれが初めてなんだよね」
「『お兄ちゃん』って言った」
「あっ、静恒!」
恋愛対象として見てもらうためにはまず『お兄ちゃん』と呼ぶのを止めることから、とのことらしいが、つい慣れた呼び方をしてしまうのだった。
「ところで本人の前で名前で呼んだことあるのか?」
「……この前電話した時に呼んでみた」
「おー。で?」
その時の二人は一瞬会話が途切れ、陸必行は慌ててごまかし笑いをして両親の呼び方につられてついそう呼んでしまったのだという言い訳をしたのだった。
「……そこで言い訳をするなよな」
「まあこれからこれから」
「ていうか何が『つい』なんだよ。『つい』で呼んじゃうのは『お兄ちゃん』の方だろ。万が一うまくいっても抱かれてる時にうっかり『お兄ちゃん』って呼ぶなよ」
「もう!!」
周六の品のないからかいに、陸必行は首筋を赤くして怒った。
PR