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紅頭鳶に落ちる夕日

殺破狼二次創作。
本編終了後の顧昀と長庚の小話です。






紅頭鳶が再び京城の人々が集まる場となったのは、新しい治世になってしばらくのことだった。
美しく聳える紅頭鳶の中でもひときわ見晴らしの良い部屋の中で、顧昀は夕暮れの色に染まる街並みを眺めていた。
「子熹」
食事を運ばせた後は人払いをしてから、長庚は顧昀の背後から腕を回して抱き寄せた。
「やっとあなたをここに連れて来られた」
感慨深そうに長庚がそう言うと、顧昀がおかしそうに笑う。
「あの時行きたくないって言ったのは誰だっけなあ?」
「それは言わないで」
耳を赤くしながら長庚は顧昀の首元に頬を擦り寄せる。
「……あの時みたいにあなたを抱き上げてここまで連れてくればよかったかな」
「馬鹿」
お前なんかに簡単に運ばれてやるか、と言いたい顧昀だったが、すでに実績のある長庚の前ではせいぜい頬を抓ってやることくらいしかできなかった。


長庚と京城に来てから何年が経っただろう。
どのように扱ったらよいか手を焼いていた小さな子供はすっかり大きくなり、拗ねたり塞ぎ込んだりすることもなく、言いたいことは何でも義父を義父と思わないような言い方で言うようになった。手がかからなくなったとも言えるし、もっと手に負えなくなったとも言える。
あの日、長庚に言った守ってやるという言葉は今のところ曲がりなりにも実行できているとは思うが、さて守られてきたのはどちらだろうということを考えると、美しく蘇った京城の街並みは顧昀の胸を打った。
あとは沈んで夜を待つだけの夕日はここまで辿り着いた自分たちのようだとも思う。
「義父さん、冷めないうちにご飯にしよう」
まるで雁回にいた頃のような口ぶりで長庚が声をかける。卓の上を横目で眺めてから顧昀は言った。
「なんだ、酒がないじゃないか」
「昨日沈将軍と少し飲んだんだから、今日はだめ」
酒の類が一切見当たらないということは、禁酒に付き合うように長庚も茶しか飲むつもりがないようだ。元々贅沢を好まない長庚のことだ。義父のためなら美しい景観を眺めていても冷たい茶だけで満足できる性格である。
「せっかくだしお前は飲んだらいいんじゃないのか?」
「そんなこと言って、僕の分を飲むつもりでしょう」
「……こんな風に?」
そう言って顧昀は振り向いて、素早く長庚の唇を盗んだ。
「子熹……!」
してやったり、と顧昀が唇を舐める。


宵闇が迫る紅頭鳶に重なる影が二つ。
紅頭鳶を見上げる京城の人々がそこで何が起きているかを知ることはなかった。


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