黙読(默读)の感想文
面白かった~!すごく直球ストレートな恋愛小説だなと思いました。そして事件がえぐい。
続きでネタバレあり感想文です。推理小説的な要素もけっこうあるんですが、その辺も含めて触れてるのでご注意。
読み終わると本当に費渡と駱聞舟というカップルが愛しくて……。
お話としては全5巻+エピローグで、各巻でそれぞれ事件が起きるという構成です。そしてひとつひとつは一旦解決はするんだけれども、どの事件にも裏があり、巨大な黒幕と謎の『朗読者』の正体に迫っていく……というのがあらすじですね。
25話までの感想に書いた通り、費渡と駱聞舟はもともと二人とも駱聞舟の同僚・親友である陶然のことが好きで相手のことを疎ましく思っており、でも陶然はお見合い相手の同級生といい感じになってしまったので失恋した者同士が……という感じなんですが反発し合ってたものの過去の記憶を紐解いていくと出会った時からわりと二人とも相手のこと気にかけてたんだなーと思います。駱聞舟は家族を失った子供とは思えない雰囲気を纏う少年の孤独に寄り添いたかったし、完璧に自己分析をして自分を律して世間の中に溶け込んで見せる費渡は自分のかぶっている皮を剥ぎ取ろうとしてくる駱聞舟の前でだけ牙を剥いている。そんな二人が事件捜査を経て愛し合うようになっていく過程が本当にめちゃくちゃいいんですよ。恋愛小説としての醍醐味がすごい。
今回の主役カプはどちらもそれなりに恋愛経験があるので自分が相手のことを気にかけてることにちゃんと自分で気付くし、その上で軽妙なアプローチとか駆け引きとかがありつつ時々投げ込まれる真っ直ぐな感情にうろたえたり、そういうのが本当に楽しい!!
読んでいて実感してくるのが私は駱聞舟のような男がめちゃめちゃ好きであり、恋愛的見せ場になると手を叩いて喜んでました。これまで読んできた作品がわりと、こう、ワケアリ攻めというか執着がすごいというかそういう攻めが多かったので、健康的な光の攻め・駱聞舟の健康的パワーに圧倒されました。1巻の事件のあとの出来事で距離が少し縮まって(でも最初は恋愛感情というより性欲が先にくる感じなのもスキ)(費渡のことはムカつくけどここ数年ご無沙汰なのでムラムラしてしまう駱聞舟~)、プレイボーイの費渡が露骨にちょっかいをかけてくるのが2巻なんですね。「あなたをナンパしようとしてるのかもよ。急にタイプが変わったのかもね?番狂わせかな?」みたいなことを言い出す費渡にキレた駱聞舟の啖呵、「第一に」「俺がイケメンであることはこれまで広く社会に認められており時代遅れではない典型的な美男子で番狂わせだと思うのはお前が本の読み過ぎで物を知らないだけだ」「第二に」「宝贝儿、何年もお前のような大言壮語をする貨色を見たことがない。そんなに小さいのに俺をナンパしたいのか?まずは牛乳をカルシウムをとれ!」これが好き過ぎて全部載せてしまったよ。これ単体で最高に好きなエピソードなんですが、これと同じ言い方でのちのち真っ直ぐな愛の言葉となって費渡に向かうのがね……泣けてしまう。
費渡の挑発に駱聞舟の反撃という応酬が最高なのですが、駱聞舟の反撃がね、ガッと実力行使に出ると見せかけてデコチューだったりするのが……好き……。百戦錬磨の費渡がそれで子供のように慌ててしまうのとかね……P大カプのやりとりは本当に満足度が高いです。えーーでもどうやってくっつくんだろうと思ってたら3巻の事件で駱聞舟をかばって費渡が大怪我をして、ICUに入ってる費渡に無理矢理会おうとする駱聞舟が看護師にどういうご関係の方ですかって聞かれて自分の家族とかもいるのに「恋人です」っていうところ!!(でもまだ付き合ってないよね笑)費渡と駱聞舟が一緒にいる時間の中で自分がどれだけ深く相手を愛しているのか、相手に愛されているのか気付いていく、そういうストレートな恋愛描写がね~心に沁みるんですよ。好きな台詞もエピソードもありすぎて書き切れないんですが、個人的に好きなのは駱聞舟の両親と費渡のエピソード色々ですかね。前述の入院してるときの駱聞舟母(最高の母)来襲も好きだし、そうそう駱聞舟は自分が同性愛者であることを両親にカミングアウト済みなんですよね。耽美で初めて現代が舞台のものを読んだんですが、主人公のセクシュアリティと家族との関係とかそういうのがちゃんと描かれて(このへんは優しい感じで書かれており優しい話になってると思う)へーと思いながら読んでました。駱聞舟が父親と費渡の話をするエピソードも好きだなあ。それから費渡との同居生活が始まって浮かれきっている駱聞舟、愛しい男ですよ。浮かれて白虹貫日で出勤してるのに普通~に遅刻してて笑っちゃった。例によって口が達者なカプなんですが、だけど両思いになる時の言葉が「あーー……これからも一緒にいてくれないか?」「いいよ」みたいなシンプルなのもすごく好きです。一旦両思いになったもののステディな関係を維持することに自信のない費渡に言う駱聞舟の「お前は俺のことが好きなんだ。認める勇気があるか?」も好き……好きな場面があり過ぎる……。
主役カプの恋愛物語がよすぎてその話ばっかりしちゃいますが、サスペンスとしても非常に面白いです。どの事件も最高に胸糞が悪いよ!!2巻の女子児童誘拐(性的な)人身売買殺人事件と4巻の名門進学校の集団いじめ(いじめという言い方も良くないですね、駱聞舟にならって集団虐待・性的暴行と言うべきでしょう)が本当に読んでて気分が悪かったです。韓国語版だと犯罪描写のためにR19になってるようですが納得です。それぞれの事件捜査もスリリングなんですが、黒幕との対決に繋がっていく過程がすごかった!!!どの事件も一人か二人くらいずつ謎の、しかし意識しなければなんてことのない登場人物がいて、それは同室のアルバイト青年だったり、配達員だったり、清掃婦だったり、警備員だったり低賃金労働者で、みな過去の理不尽な事件の被害者や遺族で、彼らを利用して事件を進展させようとしている「朗読者」がいるんですよ。だけどそれと同じようなことをね、費渡もやってるんです。一見費渡のやってることは慈善活動(しかし表には出せないタイプの)なんですが、じゃあ費渡と「朗読者」のやっていることの違いは……?という話になっていくわけで。でも費渡は自分が怪物であることを誰よりもよくわかってて、だけどやっぱり費渡のやってることは自分が対面した社会の理不尽に対する費渡なりの抵抗なんじゃないかと私は思いたいです。クライマックスで費渡が黒幕と対決してボロボロになり、駆け付けて遅くなってすまないと謝る駱聞舟に言う「怪物は全て片付けた。残りは僕だから、僕をあなたの家に閉じ込めてほしい」で号泣してしまいました。元々費渡の内なる怪物を疑っていた駱聞舟が、黒幕2(黒幕の2重構造もすごかったな~)に揺さぶりをかけられても最後まで費渡を信じて揺るがないのも泣けちゃった。
ほんとに面白い小説だったので書きたいこといっぱいあり過ぎるんですが、最後に言うとすれば陸嘉と周懐瑾という二人の中年のことですね。周懐瑾はまあ事件関係者なんですが、陸嘉は費渡の手先としてちょっと出てくるくらいのキャラだと思ったらこの太ったおじさんが八面六臂の大活躍をした挙句に周懐瑾との大冒険の末に友情が芽生えてて、これに悔しいくらい萌えてしまうのが面白いので体験してみてほしいです。
あと余談かもですが各巻のタイトルが有名文学作品の登場人物なのでメモとして置いておきます。各巻の事件をイメージさせる作品になってると思います。
・于连→スタンダール「赤と黒」のジュリアン
・亨伯特→ナボコフ「ロリータ」のハンバート
・麦克白→シェイクスピア「マクベス」のマクベス
・韦尔霍文斯基→ドストエフスキー「悪霊」のヴェルホーヴェンスキー
・埃德蒙·唐泰斯→デュマ「モンテクリスト伯」のエドモン・ダンテス
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