烽火票が象徴するもの
政治部分と番外編のネタバレあり。
烽火票はわかりやすくいえば国債で、作中でも説明されている通り烽火(=戦争ののろし)、つまり戦争が続いている期間限定の緊急財政政策なわけです。
この烽火票というアイテムが登場することによって弱体化している大梁王朝、長庚の政治家としてのリアリストな部分、大梁の政治勢力の遷移などなどがわかるんですが、最終的にこの烽火票が長庚と顧昀が手に入れた二人きりの暮らしというものに繋がっていくんだなと思うとそれがめちゃくちゃ熱くて……。
まずなんで烽火票が必要かというと大梁に金がないからで、十八部、西洋軍、東瀛(&倭寇)と外患が多く戦のための軍事費もかさみ、あと首都の再建もしないといけないし、江南もこの時期税収が見込める状態じゃないですよね。確か1巻で了然と江南に行ってたころは紫流金を利用した機械で耕作をしてたと思うんですが、なので当時はそれなりに両江からの税収があったんじゃないかな~と想像しています。
国債の歴史をぐぐってみたところやっぱり導入されるのは近代以降で、まあ殺破狼の時代設定がいつ頃かは不明なんですが王朝政治をやっているような時代に国債を発行するのはたぶん相当無茶な発想で、長庚が案を出した時の反対の声にもあったように国債を発行するということは国民に対して朝廷には金がないんだと喧伝するようなものなので皇室の権威とかを考えるとそんなことはできないっていうことですよね。しかし他に財源のあてがあるわけではなく、長庚の考えとしては一時的に国庫に金が入ることの方が大事というわけです。長庚自身がリアリストな面があるということもあるんでしょうが、国が弱体化したら顧昀はおそらく国に殉じて戦場で散るまで戦い続ける……そういう生き方をする人なので顧昀を守りたかったらやれることは全部やるしかないんですよ。
それから烽火票を発行したことで、大梁の政治権力のバランスが変化しています。具体的にいうと商人の台頭。大梁も有力な家臣はみな世襲制だと思うんですが、豪商が烽火票を購入することで政治的発言力が強まり、また官吏登用にも烽火票をどれだけ所有しているかを考慮することになったんですよね……?(個人的にこれはこれで公平でない気がするのですが)(まあ世襲オンリーよりは……)旧勢力の一掃というのもたぶん長庚がやりたいことをやるために必要だったことで、烽火票で財政政権とともにやってのける長庚の手腕!
とまあ政治的な面で大事な烽火票なのですが、これ、長庚と顧昀のラブに関わるアイテムでもあるのが憎くないですか?????長庚と顧昀の思いが通じ合うエピソードのところで烽火票の話は聞いたから候府にあるお金をかき集めて少し買っておきなさいって顧昀が長庚に言ってあげるところがめちゃくちゃ好きなんですよ。なんでかというとまず長庚は顧昀にあんまり積極的に烽火票の話をしたくない感じじゃないですか?顧昀は自分からはなるべく政治に口を出さないようにしていて(自身の立ち位置の危うさをわかってるというか、だから楼蘭の件で上奏した時のインパクトがある)徹底的に現場の人間でいようとしていることが伺えて、長庚もそんな顧昀のスタンスを知っているから裏で補佐できることは全部自分でやって顧昀がやりたいように戦えるようにしておきたい、みたいな感じなんじゃないかなーと想像します。でも顧昀はちゃんと長庚が何をしようとしているか知っていて、その上で烽火票を買っておきなさいって言ってくれる……。このシーンの顧昀にとても父親みを感じてしまってじーんとくるわけですが、即座にやってくるラブシーンのターン(好き)あっあと候府のお金のことを長庚に言付けているのも良い。候府のことは長庚が取り仕切ってますからね……。
烽火票は国債なので満期になると銀荘(銀行)で換金できるようになるんですが、顧昀がこの時に言って買っておいた烽火票が最終的に何になったかというと長庚と顧昀が二人で暮らす江南の別荘になったんですよ!!!!「我的将軍~」の独白にもあるように当時はまだ大梁が本当に平和になるのかも顧昀が生きて戦場から里へ帰ってくる日が来るかもわからないままの二人で、でも烽火票と引き換えに手に入れた江南別荘は長庚が顧昀を守り勝ち取ったものの象徴なんですよ。このことを考えるといつも胸がいっぱいになります。
私は二人の江南別荘の話が大好きなんですが、簡体字版書籍に収録されてる番外・闲事二三は別荘設計にまつわる二人の話でとてもいい話でした。
PR